水原とほる
水原とほる
書籍名:唐梅のつばら
出版社:大洋図書 シャイノベルス
内容:
13歳から29歳までの滝川初乃の人生。
13歳の時、極道・組長である滝川悦造の養子に迎えられる。それは彼の愛玩具、愛人として生きることを意味する。初乃は絶望的な毎日に孤独な日々を送るが、そんな中、1歳年上の植木職人、花村将大の出現によって初乃の心は救われる。しかし2人の関係を知った悦造によって引き裂かれてしまった。
突然の悦造の死後、彼の実子である悦司が組長を継ぐ。初乃にはまったく無関心だった悦司だったが、初乃に更なる過酷な人生を強いる。そんな滝川組に舎弟として現れたのは、ヤクザになった将大だった。
感想:
これはBLではないだろう。やおいでもない。やまあり、おちあり、いみありなお話だと思う。一番近いのはJUNEかも。
この作品を買ったのはただただヤクザものを読みたかったから。
しかし、表紙を見て解かる通り、普通のBLの表紙と趣が異なった。変わったイラストレーターを使うな、と思った。本も、シャイノベルスにしてはいつもと違うのだ。文面においては2段。
この表紙からして出版社自らの力の入れようがみてとれる。編集者の情熱というべきか。
本編もその熱意に添ったとても良い出来だったと思う。
この小説は初乃という少年が必死に生き抜くお話である。
全てにおいて必然性が存在する。
例えば名前。
最初、初乃と聞いて「またまたぁ。受けだから初乃?」などとふとどきなことを思ってしまった。しかし、名前の由来を知った時、初乃がいかに家族に愛されていたか、彼がどんなにその名前を愛おしいと思っているかを知り、浅はかな感情を抱いた自分を恥ずかしく思った。
絶望の中で生きていて、突然に訪れた希望ともいうべき存在が将大の出現である。初乃の小さな喜びが、読者である私にもすごく微笑ましかった。多分長続きしないだろうな、とは思っていたけど、残忍にも将大の目の前で緊縛され陵辱される初乃。読んでいて辛かった。けど、そんな初乃を諦めない将大の気持ちの強さが嬉しかった。
突然に悦造が死んでしまい、初乃の身柄は悦司に委ねられる。
あんなに初乃を無視していた悦司だったが、彼の決断は初乃を抱くことだった。少なからず驚いた。これからどうなって行くのだろうと思っていたところで、初乃は再びの愛人になるのだ。
しかし悦司は残酷で、初乃を辱めだけでなく売春させ、刺青を入れ、とことんまで落としていく。男に抱かれる自分を「醜い」と称した初乃の気持ちがいたいほどよくわかった。外観が美しくとも見えない汚泥で塗りつぶされた自分が見えるのだろう。
悦司とは反対に、将大は陽だまりのように優しく初乃を愛してくれる。舎弟として登場した時、思わず「嘘だろ・・・」と思った。そうきたか、と。
それで、その後は2人の逃避行があって、でもやっぱり捕まって。
引き裂かれるから面白みがあるのだけど、でもやっぱり悲しい。おまけに将大は銃で撃たれるのだから。
初乃の凄いところは、いつ得られるかもわからない自由のために、大学を卒業し、教員資格を取得するのである。つまり希望を失っていない。滝川で生きてる間は全身全霊で悦司に奉仕するけど、いつか自由になることを諦めていないのだ。絶望していない。
そこで、この本は単にヤクザものBLとかそういった観点でなく、初乃の物語なんだ、と意識付けられた。
結局は悦司は死亡するが、その後初乃に宛てられた手紙を読むシーン。これも最初は「えー、殺害されたのに遺言?」とナナメな気持ちだったけど。途中から、泣かずにはいられなかった。
悦司は組長であり、いつ何時殺害されるかもしれない、その時をいつも覚悟していたのだ。彼がなりたくなかったヤクザ、だけど、彼はいつも覚悟を持って生きていた。それを思うとものすごく切なくなった。
そしてラストの「お前を愛していた」の言葉で号泣。
実は遅まきながら、その時になって初めて悦司が初乃に執着、妄執していたのだ、という事に気がついた。
最初に初乃を無視していたのは、無視ではなく、非常に関心を持っていたからだろう。悦造の死後の、悦司と初乃の会話で、初乃を解放ではなく再び拘束を宣言した悦司に、自分は間違った答えを言ってしまったのだろうか、と初乃が後悔するシーンがあるが、多分どのような言葉を並べても恐らくは同じ結果だったに違いない。既に初乃への執着はあったのだ。どうしようもない感情を自分でコントロール出来ず、悦司も辛かっただろうと思う。
脇キャラの浅野もいい味出している。初乃と将大の逃避行の際、見つかりそうになった2人を見逃してくれた浅野。それには理由があった。
初乃がヤクザの愛人に身を落とさねばならなくなった元凶は自分にあったのだと、浅野なりに苦しんでいたのだ。ヤクザには良心が無いかのように描写するBL作家さんがいるけど、浅野という脇キャラはそんなイメージを打破してくれた。
最後に。
将大は生きていた。記憶喪失になって。銃で頭を撃たれたのに、生きていた。そこはちょっと、・・・・と思った。
でも、初乃を知らない将大と初乃の始まりがラスト。
なんだかとても希望の持てるエンディングに救われた。
評価:A
エッチ度 ☆☆☆★★
感動度 ☆☆☆☆☆
ワクワク度 ☆☆☆★★
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